The Wind from Seattle

Vol. 49

The Wind from Seattle Vol. 49

早朝、霧が立つサマミッシュリバーは静かに時を刻んでいる。遠くの木々が、繭から繰り出された糸を薄く巻いたような姿でふんわりと川に浮かんで、見えたり隠れたりする。視界が鮮明でなく、粒子をさっと振りかけた風情を優秀なレンズやセンサーが、この場面では望まない性能を発揮してくれて霧まで吹き飛ばしてしまう。そこで感度をこのカメラ最大のISO 2500に設定して、ノイズが見せる画像の粗さを期待して撮った。

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冬の野は、樹木の葉も地面を覆い尽くす草も色を落とし、全景が褪せた趣のある枯淡の味わいを見せてくれる。

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シアトルの冬は雨シーズンだ。水分をいっぱい吸い込んだ木肌には苔が育ち、びっしりと緑のフランネルを被せるように寒さから体を守ってくれている。きっと厳冬に備えているのだろう。

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あれほど分厚く緑葉を付けて豪華にざわざわ揺れていたキワタの木も、今はほとんど落葉し、かろうじて残った黄色を光らせて威厳を保っている。まあこれはこれでいい感じの美しい姿。来年春の復活の準備が始まっているのだから。

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今の時節だからこそのノスタルジックな景色は四季の歓びを感じさせてくれる。これもISO 2500が情緒をうまく引き出しているのだろうか。

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寒い冬でもオレは元気に咲くんだよって、自己表現をするアマリリス君。周囲が肩をすくめて引っ込んでいるのにりっぱりっぱ、きれいだよ。見てるとこちらの背筋も自然に伸びている。

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アメリカへ来てからスーツを着る機会が少ない。特に近年になって自分のいる業界に限らず、会社間のフォーマルな会議があってもジャケットすら着ない場合が多いようだ。だから時々正装して姿勢よく食べるディナーなんかは気持ちを引き締めてくれるし、忘れていた丁寧語も使っちゃったりして自分が品よくなったような気分にしてくれるのもよい。でもとどのつまりは格好よく飲んでいるつもりの赤ワインを喉につまらせてテーブルにぶちまけ、我に返るんだけどね。

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レストランで他の客を撮ることが多い。食事をするときは誰もが気持ちを開いて味を楽しみ食欲を満たすので、自分のバリアを外している。そんな人たちのとてもゆったりとした自然体が好きだ。

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このシーンが目に入り、映画「ダ・ヴィンチ・コード」を連想した。会話をしている二人が鏡に映っているのだけど、何となく宗教的であり、そしてミステリアスな雰囲気が絵になる。

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街で「夜」に「雨」が加わると、どうにもこうにもその場景に魅了されて、心は益々幻の世界に沈み込んでいく。そこに立ちすくみ現実から遊離して自分の存在は消滅し、知らない場所の不思議なストーリーを彷徨うことになる。

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夜の街は、すれ違う人たちの姿や影が昼間のように輪郭がはっきり見えない代わりに、よりドラマチックに自分の目に映る。暗いと、それぞれの人が内に秘めている生活臭を、ふわっと感じとりやすいからだろうか。そして自分の好む物語の展開は夜が舞台になることが多いからだろうか。

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エレベーターの中。このホリデーシーズンをどう楽しく過ごすかなど、とてもうれしそうに語り合う二人。カメラを向けざるを得ない情景だ。 さあクリスマスがすぐそこまで来てますねえ。この時期は気持ちが高揚して息が荒くなるんです。来年は何かビッグな幸せがくるかなあ、と毎年贅沢な期待。では皆さん、Happy Holidays! そしていい新年をお迎えくださいね!

( 2015.12.22 )