The Wind from Seattle

Vol. 01

The Wind from Seattle Vol. 01

「風薫る」と言えば日本では南風が新緑をさらさらと吹き抜ける5月の季語らしいのだが、シアトルは今その季節にある。長く寒い冬が過ぎ漸くすべての木や草が芽吹き葉を付け、一気に夏の準備を始めた。坂を南へ数分も下れば近くの島々とのフェリーが往き来するエリオット湾があり、この通りにもカモメが多く飛んでくる。温かなそよ風が運んでくるかすかな潮の香りに足取りも軽く、吊り花の美しさに見とれながら時が過ぎるのを感じることもない。

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19世紀後半のレンガ造りの建物が並ぶ古い町の一隅だ。このストリートをプラタナス通りと勝手に名付けて呼んでいるが、正式名はオキシデンタル アベニューという。通りの両側のたっぷりと葉を付けたプラタナスの並木は、春に緑の隧道をつくり、秋には黄色の豪華な衣装を纏う。気に入りの場所があるのはうれしいもので、その空間にいるだけでもほっとした気分になることができる。

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この辺りは洒脱なギャラリーやカフェも多くあり、街の雰囲気づくりに一役買っている。あちこち店を覗きながらぶらぶらと散策するのは本当に楽しいものだ。行き交う人々も早足に歩くことはなく、のんびりと犬を連れていたり、子供や友人とだったり、総じてスローなペースで動いている。 ここでよく見かける人もいるが、知り合いになるまでもなく、目が合えばわずかに頷いて済ます挨拶は気軽でいいものだ。といっても数回来ている間にその人の姿を見ないとどうしてるかなと一瞬思うのは、その人達とこの場所との一体感が生まれているのだろう。向こうも同じように思っているのかもしれないが、互いに暗黙の了解で気持ちの領分を守っているようだ。都会の孤独というのはこういう一面もあるのだと思った。一人だけど何となく見守られている安心感がある。

(3カット全てLEICA M8 , Thambar 2.2/9)

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ギャラリーの前で視線を感じ、ふと奥を見ると一人の女性がじっとこちらを見ていた。昔知っていた人に遇ったような、或いは以前見た映画の物語かなにかとオーバーラップしているのだろうか、不思議な空気に戸惑いながら暫く見つめ合った。そしてときめく胸を静め、カメラを彼女に向けた。

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いつものようにマンフロットのオートマチック1脚にM8を乗せて肩に担いで歩いていたが、それが特別に見えなくて自然にこの場所に溶け込んでいるスタイルと思えるのは、人々がそれぞれ自分の世界を携えてここへ来ているのを知っていて、互いにそれを尊重し合っているからだろう。そういった雰囲気もこの場所の気楽さの所以なのかもしれない。

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そして、今日もプラタナスは夏に向けて広く大きな木陰をつくる準備をしているし、吊り花はサイドで華やかに季節の演出をしてくれている。青空を見上げ、大きく伸びをしてこのひとときの喜びを胸一杯吸い込んだ。