The Wind from Seattle

Vol. 46

The Wind from Seattle Vol. 46

アメリカ本土で距離的に日本に最も近い町シアトルがあるワシントン州は、西側の太平洋からピュージェットサウンドと呼ばれる湾が内陸部へ複雑に入り組み、州境のコロンビア川まで数多くの湖が点在する。特にシアトル周辺は水に囲まれ、ちょっとした余暇を楽しむには実に便利な土地柄だ。急激に気温が低くなってきた9月の朝、遠くは霧が深くかかっている。朝食を終えて散歩をする人たちが三々五々、潮が引いた浜辺に集まってきた。

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深い霧の隙間から太陽が差し始めた瞬間は息をのむほど美しい。周りはまだ青白く、海面だけがキラキラと薄い赤色に光りだす。最高級の宝石も、華麗にまたたくこの輝きは望めないだろう。

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ローカルな奥まった入り江は、ウイークエンドでも多くの人が押し寄せることもなく、静かに自分のペースで時を楽しむことができる。

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遠浅の広い浜、この子にとってここは日常の生活の一部なんだろう。草を踏み、小魚をさがしている姿のなんと無邪気な様か。シャッターを切りながら自分が微笑んでしまっているのに気づいた。

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フライフィッシングのサーモン釣りを初めて見た。相当の熟練者なのだろう、美しく弧を描くキャスティングが芸術的だ。何度かフライが宙に舞った後、かかったサーモンが縦横に走り、ロッドがしなり、しばらくの間バトルが続く。

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チャーリーさんが釣り上げたのは体長60cmほどの見事なシルバーサーモン(Coho Salmon)だ。「食べる?」「ええ好きです。」「じゃあ持っていきなよ。」「え、いただいていいんですか?ありがとうございます!!」…その日の夜、早速塩焼きした味は言うまでもなく、脂がのって甘く香ばしく海藻ミネラルいっぱいのおいしさに堪能した。

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暗くなってくると雰囲気が変わり、どこか北欧の寒村を思わせるような風景になる。実際この辺りはノルウェーからの移住者の子孫が多く住んでいるそうだ。

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日が落ち、少しもやった遠景に山々のシルエットが薄墨で描かれたように溶け込んでいる。そしてついには次第に暗くなる空にその姿を沈めていった。

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地形的に緩やかな丘に囲まれた湾が多くあり、それぞれの入り江に大小の港町が営まれている。車を止めて窓を開けると潮の匂いを含んだ独特の空気が流れてきて、とてもロマンチックな感覚に導いてくれる。

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ここポート・タウンゼントはシアトルから直線距離で北西へ約70kmにあって、その中心部は築100年前後の建物がずらりと健在だ。張り替え塗り替え、世代を超えて残っている。歩いている人も背景にマッチして当時を思わせるようなファッションだ。

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タイムスリップしたような気持ちで後をついていったら、彼女はその雰囲気ぴったりのタロット占い師で、ここに自分で小屋を建てて住んで?いるそうだ。この中には別の世界が存在するという。いや、きっとそうにちがいないと思った。

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そんな街にはこんなトラックがお似合い。車検なんて制度はないですから古くても動けば現役なんす。はっはっ、自分とおんなじやし。

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「気怠い昼下がり。この港町では見かけない若い男がブーンと小型モーターの音を響かせて船着き場に入ってきた。」事情があってここに行き着いた彼は、父親がこれから漁に出る船へ自転車に乗って夜食を届けにきた黄色い花柄のワンピースの娘と、間もなく運命的な出会いをすることになる。でも彼には過去の秘密があって…なんてね。ロマンチックミステリーのプロローグだ。ああこんな場面好きだなあ。

( 2015.09.08 )