秋の訪れ。また一年が巡ったかと思うのは、毎年この時期の自分の慣わしだ。空は青く雄大で、雲は益々高く飛翔する。そしてそれを見ながら子供の頃の運動会の追想が浮かぶのも、やはりいつものことだ。息子と孫、娘の夫に冒険ドライブに行こうと誘われた。日曜日のことで予定していたあれこれがあったが、親子三代しかも男だけっていうのも面白そうだと、二つ返事で行くことにした。
息子がタフな車を持っているので、「冒険」と言うからには相当アブナイ何処かへ行くのかと、期待半分、心配半分。東にある山の中腹の小さな湖が目的地だと地図を見せてくれたが、確かに小さくぽつんと湖らしきものはあれど、周辺の道が全く書かれてない。この山は昔インデアンの大きな部族が住み、馬道ができていて、今は冬場にその道をクロスカントリースキーヤーが使っているという情報を聞いたので、その道を走れるだろうというのだ。でもそんな道をでっかい車が通れるのかいなと疑問はあったが、ハイウエイを降りてこの道に入ったので、何だこんなに広い道だったら乗用車でも楽勝じゃん、「冒険」って大げさなことを言いよるわいと心の中で密かに苦笑した。
地図と磁石で方向を確認しながら、今までの道をはずれて湖を目差していると、そのうち山道に入り突然ここ。「道がないぞ」「ここを抜ければまた道が続いているみたい」「でも左は崖だし右に乗り上げないと落ちるよ」「じゃんけんで行く行かないを決めますか」、おいおい命の危険があるのにじゃんけんてか。結局方向転換もバックで戻ることも出来ないので、運転手以外は全員思い切り右側へ体を預け、車がずり落ちそうになったら皆で逃げようと安全ベルトもドアのロックも外し、右の窓は全開にした。ふ~~、緊張で呼吸困難だったが何とか難所を渡ることができた。なるほど冒険だわい。
あれに比べれば取りあえず筋がついているだけでもましだけど、これって車が通れる道じゃないよね。だって車輪は道をまたいだまま走ることになるし、大きな木がサイドにあれば、切り倒さないと今来た道をバックで戻るって不可能でしょう。助けを呼ぶにも携帯電話は電波がきてないから、誰かが徒歩で里へ下りないといけないし、暗くなっちゃうよ。『無謀な親子三代が動けなくなって大型ヘリコプターで車ごと救出』なんて新聞の見出しになるのもいやだなあと全員腕組み。
なんだかんだと皆不安を隠すのに大声で無駄な対策を話しているうちに、広い場所にでてほっと一息。腹が減っては戦にならぬとおにぎり弁当を食べることにした。こんな環境の中で食べる手作りランチのおいしいこと。幸せいっぱい、不安少々。ここで断念して帰るにしても別のルートを探さないといけないし、とにかく続行することに全員一致。腹がふくれて皆勇気ばんばんってところだ。手を握り合ってエイエイオーって言おうよと提案したかったけど、ダサいと言われそうでやめた。
やったー!!着いたぞって前に進みすぎて湿地にタイアが沈みはじめて慌ててバック。
人間が来るのもまれだろうな。こんなに澄んだ水。空気も何もかもフレッシュだ。大自然に育まれて静かに時を刻んでいる。
孫(ルイ)、息子(キース T)、娘の夫(キース M)、よかったね、豪華ではないけどこの神秘的な美しさを一緒に感動しよう。遠くに高圧線が走るのを見て何故かほっとした。あまりにも日常とかけ離れた雰囲気の中にいるとあんな無機質なものでも人間に関連するものを見てそんな気持ちになるんだなあ。 暗くなる前に余裕をもって山を下りなければならないけど、ブラウントラウトを一匹釣ったところで、山頂へ向かってみようということになった。
とにかく登りの勾配がある道を探して更に上へ上へ。
よし!第二ラウンド達成だ。今日のゴールだな。とっとー、前に行きすぎないように。
すばらしい景観。ここが草いっぱいの丘だったらサウンドオブミュージックだ。この空間には、切り出した木をロープウエイか何かで下へ降ろすために使われていたような昔の形跡があった。
よくぞ難所を切り抜けてここまで乗りこえてくれた。力持ちで頑丈なのはいかにもアメ車の代表的なジープだ。下りも頑張ってね、よろしく。
いざという時の水、食料や暖房用品などは幸い使うことはなかった。下りの道も楽ではなかったけど何とか無事に帰途についた。家に帰ったときは陽が落ちて寒くなっていたが、家族が用意してくれていた鍋料理がうれしかったなあ。釣った30センチのトラウトは塩焼きにして皆でひと箸づつ食べた。いやーこれが今まで食べたことがない甘くて香ばしい格別の味で感激した。
親子三代の一日冒険はこうして終わった。互いに話をする機会は多くあるけど、今回のような経験で、言葉のやりとりでは感じなかった、危険を共にして同じく運命を託す気持ちの連帯感というか、新しい感情が生まれたのは貴重な発見だった。
( 2014.11.27 )