The Wind from Seattle

Vol. 31

The Wind from Seattle Vol. 31

秋は古典的な美しさがあり田園の風趣をしのばせる。そして印象的な序奏が変奏曲となって野や山を駈け、まるで万華鏡の中にいるような変化のある光彩が満ちあふれている。

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湖沿いの曲がりくねった小道を歩いていると黄色くなった葉が賑やかに迎えてくれて、晴れてない日でもキラキラと揺れる枝葉のラインダンスが少しふさがり気味だった気持ちを開いてくれる。対岸の景色や時折行き過ぎるボートなどをぼんやり眺めながら、いつの間にかすっきりと快適な気分になっているんだ。

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この頃の風景は実に美しい。自分も年と共に枯れ始めたから何となくその色調に親近感を持っているのだろうか。特に散る直前の色は、背景がどんなカラーでもうまく調和して優しく輝いている。風が吹けば枝にしがみついているのでなく、さっと乗っかって飛んでいくし、どこへ行ってしまうのかそれも風任せというのがいいなあ。

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スポーツの秋というのは古今東西同じ現象ではないだろうか。夏が過ぎて少し気温が下がり天候も安定して競技をする環境がよくなるからだろう。シアトルは11月に入るとレイニーシーズンになり、青空が一日中広がることは少ない。湾や湖、川などに囲まれているので各種のボートレースが多く、たまたま晴れた日には多くの人が貴重な日を浴びながら観戦を楽しむ。

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アメリカインデアンの血を引いてシアトルで生まれたジミ・ヘンドリックスは、今月27日が誕生日で1942年だから生存していたら自分と同い年だ。ロックンロールはあまり興味がなかったが、史上最高のロックギタリストとして彼の曲はチェックしていたし、代表曲のPurple Haze(紫のけむり)で使用されているE7#9というコードは有名で、自分でもこの不思議な響きを醸し出す「ジミヘンコード」を弾いてみて判ったような判らないような。でもこれが流行のサイケな音なんだと理解しようと努力していたことを覚えている。すい星のように燦然と現れ、世界のロックファンに光を注ぎ、あっという間にいなくなってしまったが彼のその光跡は永遠に残るだろう。

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昨年オープンしたチフリー・ガーデンアンドガラス美術館のガラスハウスに入ると、自分も透明になった錯覚におそわれる。反射しながら明かりが飛び交っていて、その光が何本も自分の体を抜けていっているような奇妙な心地がした。

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シアトル出身のガラス工芸家チフリーはフルブライトプログラムでイタリーのベニスでガラスを学んだ後、技をめきめきと上達させ今や世界的なアーティストになった。彼が日本を訪ねたときに漁村で見た魚網につける浮き球のイメージが、彼の代表的作品のひとつになっている。

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夢で見たものを覚えていて、それに実際出会った時はとてもびっくりした。このオブジェがそれで3階建てくらいの高さだが、夢の中の花びらは開いたり閉じたりしていてこの通りの姿だったのだ。こんなことは初めてで、デジャブではなく、はっきりと夢で見たと思うのだが(こういうのもデジャブというのかな)、スケッチを残しておいたらよかった。もしかしたら自分に予知能力があるかもしれないし。

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五官で秋に親しむといい。紅葉する木々、高く澄み渡る空、そしていわし雲や美しい夕焼けを見て、夜長に沁み渡る虫の声、枯れ葉が鳴る音、風に伝わってくる胸をうつメロディを聴き、暖炉に燃える薪のけむり、ハロウイーンキャンディやサンクスギビングのごちそうが匂い、旬の数々の食材、ワインを味わい、柔らかな毛布を指でなぞり、肌に冷え始めた空気が触れる、そんな具合に全身の感覚で楽しんでいる。

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さあさーお立ち会い、大きなアラスカンキングクラブやダンジョネスクラブが店頭に並び始めたぞ。冷凍のものは年中あるけど、やっぱりその年に獲れたカニはおいしいね。アラスカベーリング海でのカニ漁が有名で漁船のベース基地はシアトル周辺にあって、ここから出港していくんだ。通常10月から1月の4ヶ月の漁期にその年の解禁の期日が決められるんだなあ。テレビでもドキュメンタリーが放映されているでしょ、だからその様子はよく知られていると思うけど、半端じゃない荒海の危険で過酷な作業環境なんだよね。平均して毎週一名のフィッシャーマンが命を落としているらしいけど、収入がいいので希望者も多いんだって。そうそうチャーリー爺さんも何度か行ったそうだ。とにかく市場の店には新鮮な魚貝類が豊富にでていて肉より魚が好きな我が身としては食にもうれしいこの頃なんだよね、これが。

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ホリデイシーズンは外出も多くなるが、カメラを持っていると撮影するつもりがなくてもいつものくせで目線が撮るものをチェックしているようで、それを見つけたらいつの間にか自分の歩調を被写体のタイミングに合わせていて、結局シャッターボタンを押すことになるんだなあ。

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写真を撮る予定がなければカメラを持たずに出かければいいじゃないかと言われるけど、現代人が携帯電話を持たずにいるときの落ち着きのなさというか、服を着てないような不安さが付きまとうのと同じかな。それでやっぱりカメラを持つんだけど、せめて身軽でいたいので軽量なX1あたりを選ぶのだが、そんな時に限ってレンズの種類を使える本番カメラを持ってきたらよかったと思わせる場面に出会うんだな。

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バレエ・くるみ割り人形「Nutcracker」の看板が上がった。ああ一年が過ぎようとしているだなあと思いが走る。毎年の締めくくりは定番のベートーベンの第9かヘンデルのメサイアか、或いはこのくるみ割り人形にいくのだが、今年はまだどれにするか決めてない。このチャイコフスキーのバレエ曲は全15曲からなる組曲で初演が1892年12月ということだ。ドイツの作家ホフマンの幻想的おとぎ話「くるみ割り人形とハツカネズミの王様」を題材にした曲だが、クリスマスが物語のテーマなので毎年この時期に上演される。シアトルではPacific Northwest Balletがホリデイシーズンに明るい彩りを添えてくれている。芸術の秋とも言われるように各種のアートがあちこちで開催されていて気持ちを豊かにふくらませてくれる。

今年は例年より寒さが早くやって来たようだ。秋晴れも断続的でしかも短く、イメージに描いていた晴天下の紅葉を撮るタイミングを逸してしまった。しかし曇り日の控えめな発色の秋風景もそれなりに美しく、この地方独特の雰囲気を楽しめた。