The Wind from Seattle

Vol. 29

The Wind from Seattle Vol. 29

日本でマウントレーニアというカップのカフェラッテを飲んだことがある。シアトル発のコーヒー店チェーンはポピュラーだが、こちらの地元の山の名前がブランドになっている日本発のコーヒー飲料があることは知らなかった。香りも味もよく、コクもあってカップに印刷されている山の姿を見ながら仕事の合間に一息ついだのを覚えている。レーニア山は4400mの高さでシアトルから南東へ140kmのところに位置し、麓には多くのトレールがあって、やさしいコースを選べば気軽にハイキングができるようになっている。ループになっているビギナーコースを歩いたが、いや~これ初心者用?って感じで、雄大な自然風景の中にいることに感激したけど、息が上がって、優雅に撮りながら歩いたとは言えないかな。でも自信がついたから、きちっと山歩きの準備をしていずれ中級コースぐらいには挑戦したい。

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山間にあるオアシスのような水場は、なだらかな峰を越えたところで突然現れた。一瞬秘境のように見えて外の世界と接しないインデアンの村でもあるのかと思った。このまま現実の生活に戻れなくてもいいやと思えるほど美しい場所だった。

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シアトル地区のダウンタウンは大きな港町という感じ。高層ビルは多くなく、街がすっきりしていて圧迫感がないのが気に入っている。そして周辺にはそれぞれ個性的なこぢんまりした街が湖や湾に面して点在している。

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湾の北側に位置するバラード(Ballard)という趣のある小さな街だった。ふと見た窓の内側に座っている女性にドキッときた。こんな時はいつも右脳が即別世界へトリップしてしまって自分がどこにいて、何のために歩いているかなどはどうでもよく、図々しく彼女と自分だけが外界から仕切られた幻想的空間にいるような錯覚におちいる。反射的に(自分でも驚くほど素早く)カメラを構えたところで彼女がこちらに気づいたので「撮ってもいいですかサイン」を送ったら、やさしく頷いた。その美しい仕草が心を魅了する旋律となり、気持ちをこめて数回シャッターを切ったのだ。しかしこの写真はOKをとる前に写したもので、知性と共に憂いや疑惑、興味、そしてなぐさめや甘い感情などが複雑に入り組んだ、彼女の内面を深く感じさせる自然描写になった。

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日が傾き始めた頃の、このもったりとした空気感が好きだ。午後9時頃まで明るい長い夜の始まりは、一日のうちで最も気持ちに余裕を持つことができる時間ではないだろうか。家路につく人びとの賑わいが去り、街も歩みをゆるめ静かに時を刻むのだ。

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数々の賞をとったファンタジー冒険小説「The Boy with Golden Eyes」の主人公ルパートと共に旅し、多くの苦難に耐える恐れを知らない明るい性格を持つ美しい少女リラのイメージモデルのルーシー(Lucie)ちゃんは、利発でとてもかわいい女の子で少し恥ずかしがり屋なのだ。NYに住んでいるが毎年夏は両親と、兄であり黄金色の目を持つ少年ルパートのイメージモデルのサム(Sam)君も一緒にシアトルで休暇を過ごす。その際は作者のマージョリー・ヤング(Marjorie Young)さんと共に本のマーケティングの手伝いもする。最近第3巻が発売されて冒険もいよいよ佳境に入ってきているが、日本語翻訳の出版が実現すればと願っている。

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青い海、青い空、夏景色の定番だ。寒くて暗い冬の時期はいつもこんな風景を懐かしく思い描いている。そして夏が来るとイメージが現実となり、その中で手を広げながら伸びをして季節の幸福感を味わう。ベリンハム湾(Bellingham Bay)を広く描写したかったので21mmレンズを取り出した。フードがしっかり溝にはまっていなかったので、コーナーに影ができてしまった。優等生写真としては失敗作なんだろうけど、この周辺落ちが絵をバランスよくまとめてくれて自分としては好きな写真になっている。

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サミッシュ湾(Samish Bay)に面するイタリアンレストランでの一コマ、何の乾杯だろう。スタートかエンディングか、それともコンティニューの喜びか、二人の関係?仕事?、テーマは何であれ乾杯というのは一くぎりの合意を意味するのだからとに角おめでたいことなのだろう。見ていてこちらの気分もいいし、心の中で一緒にカンパイとつぶやく。

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珍しく車の助手席に座っていつでも撮れるようカメラを手にしていた。運転していないのは気楽なもので、流れていく景色を眺めているうちにまぶたが落ちてくる。ぼんやりした目で前を見ると、荷台を引いた車が古そうな木の橋をくぐるところだった。何でもない風景だが急いでシャッターボタンを押した。この一見なんでもないシーンだけど、何か感じるものがあるのだ。

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国はカナダでもバンクーバーは100%英語圏だし、地理的にもご近所さんなので外国へ来たという感覚は全くなく、ストリートのおじさんにも気楽に話かけることができる。最近刑務所から出たが、何年かいる間に鉄格子の中で学んだ絵画に自分の才能を見いだしたとか、とてもすばらしいイラストを描いていた。こうして彼は街頭でデモをしながらギャラリーが目を付けてくれて自分の絵を展示できるようになるのが夢だそうだ。

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陽が横に差し始めた。この家に住んで10年以上になるが、こんな影絵を見るのは初めてだった。西日がキッチンの窓に反射してストリートに止まっていた車の窓に当たり、その反射光が角度を変えてこちらの窓に返ってきて室内を明るく照らしている。光と影の面積や形が刻々と変化していき、数分間はまるでスローモーションムービーを見ているようだった。

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先日ライカアカデミーのワークショプがカナダのバンクーバーであった。古い建物を改修したおしゃれなカフェで写真の手前奥にある小部屋で行われた。通常の講習会場のように無機質な教室とちがい、気持ちが和らぐし、なんとなくアートを学べる雰囲気があって、それだけで参加してよかったと思わせてくれた。

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しかしワークショップの内容は期待したものではなく空振りだった。メインは M Monochromカメラがいかに優れているかの説明で、モノクロの価値や何をどう撮るとかの話までの具体性はほとんどなかった。モノクロ写真をメインに撮るライカ専属プロの話は興味の深いものだったが、男女受講者十数名のほぼ全員がMMを持ってなく講習の後、実機を貸し出してストリートで実写を体験するものだった。MMに興味を持つプロのフォトグラファーも来ていてそんな人たちとの会話は楽しかったし、隣に座った台湾系のアメリカ人でカナダ国境まで30kmほどのベリンハム(Bellingham)という静かな街に住むジョーさんと知り合えたのは収穫だ。その後、週末に彼を訪ねて街を案内してもらったが、フェアヘブン(Fairhaven)という歴史地区があって100年前ぐらいに建てられた煉瓦ビルや住宅など(彼の家にも伺ったが昔の風格があるとてもおしゃれな佇まい)があり、レストラン、カフェ、ギャラリーなど実に滋味のある区画で、またゆっくり行って見たいと思っている。これは彼を訪ねた時の写真で、ここのアイスラッテがとってもうま~~かった。

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カナダ、バンクーバーのダウンタウンを歩いているところを、知らないうちにジョーさんが対面スナップした。自分にとって珍しい写真。撮られることはあまりないもんね。目を据えてひとり言をつぶやいているみたいだけど、何かねらってるんだろうか。いつもこんな顔して歩いているのかなあ。いやきっと暑いなあ一枚脱ごうかなんて言ってるんだろう。帽子と一脚はどこかへ置き忘れてきたかな、カメラバッグを背負って右肩からMM、右手にはM9-P、まあ装備は完璧じゃん。