The Wind from Seattle

Vol. 28

The Wind from Seattle Vol. 28

やっぱり青空の下って壮快だ。幸い気温が高くても湿気が低いから、すこし風があって、帽子をかぶるか日傘でもあれば一日中いても熱中症にはならないし、まあ日焼けの心配くらいかな。こんな中に農機具がおいてあると必ず写真を撮りたくなるのは自然の中に人の生活を感じさせる風景が好きだからだろう。

enter image description here

農業地帯にある町のタバーン(Tavern)は、西部劇にでてくるサルーン(Saloon)のような居酒屋で(オールドウエスタンスタイルのバーは「サルーン」と呼ばれていたらしいが、今は「タバーン」が一般的な呼称になっている。)、ここは1890年にオープンしたというから、その頃はカーボーイが埃を払いながら両開きのサルーンドアをど~んと押して入り、カウンターで大きめのショットグラスでバーボンウイスキーを一気飲みするあのシーンがあったのだろう。壁の額に入っていた1910年に撮影されたという黄色くなった当時の写真はほとんど今の面影を残し、バーの上には同じムースヘッドが見下ろしている。もう100年以上もこうして人模様を眺めていたんだ。

enter image description here

タバーンは至る所にあるのだが、北へ行ったところにチャーリー爺さんが若い頃に通い詰めた居酒屋があって、今の経営者は孫のようなもの。彼の自宅から車で20分程だが、誰かが連れて行ってくれるのを心待ちにしている。昔からの定位置に座ってフィッシュ・アンド・チップスとニシンの酢漬け、ビールかコーヒーでいつまでも動かない。コーヒーカップを持つ手は野球のグローブのようにごわごわと大きくて力強い、木こり、漁師、農業と厳しく自然を渡りあるいてきて出来上がった芸術品だ。こんなに居心地が良さそうな姿を見ると、もう帰りましょうか、と言えなくて一緒に長居をすることになる。そしてこちらがまる覚えしてしまうほど何度も話してくれた彼の冒険談を、相変わらずわくわくして聞いてしまうのだ。

enter image description here

シアトルは都市と自然が隣接しているというが、なるほど100 km程走れば人がほとんど踏入ったことのないような深い森が点在する。ここにはビーバーの大きな巣があり、手頃な枝を囓って積み上げられた木で高さが1m以上の大きな円錐になっていた。耳を澄ますとゴソゴソとかピチャピチャという音が聞こえるような気がしたが、一夫一婦と子供たち家族が生活している営みを邪魔しないよう、早々にその場を離れた。

enter image description here

日が沈む頃に三々五々集まってくる牛たち。ここから牛舎へ連れて行かれて今日の眠りにつくのだろう。昼間は暑くてもこの時間になると涼しく爽やかな風がすーっと平野を抜けていき、そこに立つ自分の身も心も清められているような気分になる。

enter image description here

アンリ・カルティエ=ブレッソンは幾何学的構図を好んだという。少し離れたところから広角的(メインは50mmレンズを多用していたとか)に、光や影や物を造形美術としてうまく捉え、そこに人を入れて生活感を作り出している彼の作品は大好きだ。この写真はそれを意識して構図をしたわけではないが、カメラを向けながらふとそんなことを思っていた。

enter image description here

最近はこのような木村伊兵衛風の近接対決スナップ的な写真が多くなっている。それはスリルがあっていいのだが、被写界深度を大きくしてシャッターチャンスの自由度を高めるのが目的で人物スナップは主に広角レンズを使っている。時には少しトリミングもしているが、28mmなら28mmらしい広い写角で表現する人物スナップもしなければと思っている。

enter image description here

う~ん、おしゃれな女性。特に靴と靴下のコンビネーションの楽しさが目に留まって、足下だけ撮ろうかとも思った。立ち止まって坂道を休んでいるのか、サングラスで表情は分からなかったが大きな布袋と首から青い紐で下げている鍵がミステリーっぽくて気になった。

enter image description here

昼の光がスポットライトのように当たっている彼が目立っていた。帽子がとても個性的でハンティングを後ろ向きにして、クラシックなゴーグルがなかなかいい。そしてキジのしっぽだろうか極めつきの恰好良さだ。下を見ていたので図々しく近づいてファインダーを覗いて撮ったが、シャッターを切った瞬間彼が顔を上げた。目の前にカメラがあって驚いたろうけど、こちらもびっくりして慌てて今日はと手を振ってしまった。

enter image description here

こんなシーンに出会うと無意識にでもカメラが向いてしまう。ウインドーへの映り込みもほしかったがタイミングを外してしまった。あと数秒早く気づけばうまくいったのに。

enter image description here

自由に描かれたのだろうか、面白い壁。丁度通りがかった女性の頭の上へライオンマンが立つような構図にしたいと瞬間思ったが、カメラのアングルが平行すぎたのとシャッタータイミングをうまく合わせれなかった。もっと素早いアクションをしないとね。

enter image description here

いや腹の立つ気持ちは分かるけど、パブリックな場所で攻撃されるのが弱いの、男は。1分以上ガミガミやられると逃げたくなるの、男は。ごめんねと言いたいんだけどすぐにはそれができないの、男は。5分黙っててごらん、チュッとほっぺにキスしてくれるよ、それが男さ。

enter image description here

女性が二人座っているだけの何の変哲もない写真、でもこれ気に入ってる。階調や二人の表情が光の回り具合と共に穏やかで好きだ。これはカラーでないのが良かったと思う。向こうからふわっとこちらの心へやさしく入ってくるこんな情景に感動させられて、甘い顔して綿菓子の上に立ってるような気持ちでシャッターボタンをそっと押すんだ。

enter image description here

可視光線をカットして赤外線だけを透過させるフィルターをつけ、M8で赤外線写真なるものを撮ってみた。注文したフィルターのうち、先に届いたIR850を使った。基本的に青空は濃く、葉の緑は薄く写る。この写真の落葉樹は白くなっているが、常緑樹は黒くなっている。天気が悪かったので空は雲が多く、全体的に赤外線効果はあまり画像に表れてないかもしれない。手前の陸の部分は濃く写っていて雨でできた大きな水たまりは雲の映り込みで白くなっている。 可視光線で合わせるピントと赤外線でのピント位置は異なるらしく、赤外線写真を撮るときは絞りをなるべく小さくして被写体深度を大きくした方がフォーカスを合わせやすいと聞いている。ただシャッター速度が遅くなるので三脚が必需品らしい。いろいろなテクニックを使った赤外線芸術写真を見ていると普通目にしない描写がなかなか面白そうで、折角M8を持っているのだから、もう少し学んで試したくなった。

近々カナダのバンクーバー(シアトルから北へ車で3時間)で、ライカアカデミーのM Monochrom Photoワークショップがある。モノクロ写真のことをもっと知りたいので参加することにした。また知識を詰め込んで頭でっかちになって迷ってしまうことになると思うけど、どうせ数ヶ月で学んだことは忘れてしまうだろうし、まあ何かピンとくるものがあることを期待して行ってきま~す。