The Wind from Seattle

Vol. 25

The Wind from Seattle Vol. 25

東京で開催した2週間の写真展が終わった。自分の絵が壁にあるのは小学生の時、色鉛筆で描いたのを廊下の壁に貼ってもらって以来のことで、へ~えボクの絵だぁ、とすこし胸を張りながら見たことを思い出した。

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折角ヨドバシカメラさんにサポートしていただいた個展で、街角スナップがメインの、人々の普通の姿をストレートに撮っただけの何でもない写真を見に来てもらえるのだろうかという心配と裏腹に、随分多くの人たちが訪れ、そんな「普通さ」に共感していただけたようで本当にうれしく、自分の撮影スタイルは今のままでいいんだなあと思った。

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それはとても有り難いことで、何を撮るべきかを特別に工夫する必要もないということだから、今まで通り、ただ感じたまま撮りたいものにカメラを向け、シャッターを切ればいいのだ。

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在廊中はできるだけ多くの人に話かけ、写真の説明や展示の中のお好きな写真と共に撮らせていただいたりもした。写真を撮れなかった人たちの好みも含め、結局展示写真の24点総てが指差されたのは興味深いことだった。

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最も人気のあったのは輝く秋光の中で母子が水遊びをする写真だった。日に透けて眩いほどの黄色い楓の木の葉に囲まれた静かな湖畔の風景は、自分の大好きな一枚でもある。特にこの都会にあって忙しく立ち働く人たちが求めているのは、このようなゆったりと平和な情景なのだろう。

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会場を入ってすぐ左に表題の説明があって一応順序を追って見るように設定してあったが、来場者は右からでも左からでも先ず写真全体をさっと眺め、その後気に入ったものからゆっくり見なおしていくというパターンが多かった。個々の写真のタイトルや撮影時の説明などがあればより鑑賞が深まってよかったという声が少なくなかった。確かに写真によっては、表れていない背後の物語を説明するとより興味を持つ人も多いのだ。

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初日だったか「With the Wind 」のピアノ曲が流れる中、写真に囲まれて一人ゆっくりと時間を過ごしている女性がいた。中央の長椅子は荷物を置いたり、足を休めたり、また会話をしたりする場所としてとても有意義なスポットだった。また直ぐ隣にはおいしいコーヒーを出す喫茶店があり、軽食をしたり友人などが来たときもとても便利だった。

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さてお立ち会い、今回はもう一つ大きな出来事があったんす。じゃ~ん(ドラの音)。まったく予期しなかったライカ M モノクロームの購入だんす。まだ品薄で販売店にはたまに数台入荷するんだとさ。その「たま」が起きてしまったという内部ニュースじゃけん。なんというタイミングだべ!ばってん薄い財布から数枚の札を引き抜くことですむ問題ではなかと。よかったんか、悪かったんか。まあいいっす、これもWith the Windだわさ。

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このカメラはモノクロのみでカラーは撮れないのでプロや余程の写真好きの人が手にするのだろう。その優れた描写性能に興味は持っていたが、正直、買うことは考えていなかった。人を感動させるモノクロ写真は、言葉少なくして深い意味合いを明快に表現する俳句のようなものと聞いている。これも出会いかなとモノクロの情感に自己流の自由律で挑戦してみようと思った。

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本格的なモノクロ写真は現像やレタッチなど、撮った後でも高度な技術がいるという。カラーがない分情報量が少なく、一色の濃淡や描かれる光の具合だけで雰囲気や感動を表現しないとならないのだ。

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以前ライカアカデミーのワークショップでモノクロの講座を受けたが、こうして追い込まれるとそれを実践するしかない。しかし自分の撮影スタイルは直感的に好きなものを撮るだけだから、モノクロに合う被写体を探し歩くというのはどうもタイプではない。ただそれに気付くようにはならねばならないと思っている。

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先ずは今まで通りに撮りながら、光や影をより鋭敏に写しとる為にせめて構図やアングルを工夫することから始めようか。しかし人物スナップは瞬時にシャッターを切ることが多く、そんな余裕はないかもしれない。会期中に仕事で中野へ直行した早朝、開店前にほっと一息つく酒屋のおじさんと出勤途中の男女の下町情緒は、カメラの種類を問わず撮りたくなるシーンだ。

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モノクロ写真というまだ深く知ることがない世界に真面目に?足を踏み入れることになってしまったこのカメラ、開き直ってシャッターを切り続けてみよう。

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写真展が終わった次の日に渋谷で仕事関係の会食をしてタクシーでの帰り道、交差点の信号で止まった車のガラスを抜けて街灯の明るい光が入ってきた。窓に張ってあった数々のステッカーの影がシートにおもしろい模様を描いていた。今までだったらあまり気にとめることはなかったが、カバンから急いでカメラを取り出し、構えて撮った。う~んモノクロ意識が働きだしていたのかな。とにかく今この写真を見ると、写真展、仕事とも無事終えて明日は帰途につくだけのホッとした充実感が蘇り、とても懐かしく思える。

あきらめていたソメイヨシノも、滞在中に八重桜までしっかりと目に留めることができた。そして写真展とカメラと友人と仕事と、今回の19日間は実に内容の濃い旅だった。