The Wind from Seattle

Vol. 24

The Wind from Seattle Vol. 24

Leica X1は数年前購入して以来、それ程出番はなかった。車のドアポケットに無造作につっこまれて、いざという時の緊急用に使うカメラに位置づけされ、うっすらと埃をかぶっている状態だ。たまに撮る写真は流石ライカと思えるものもあるが、どうしてもM8やM9が優先されてしまっている。「飼い殺しじゃねーか、だったら買わないでほしかった」なんて声が運転中に左下から聞こえてくるようになって、渋々ながらもメインで持ち歩いてストリートスナップをする気になった。サブはこれも自分としてはめずらしいM9とタンバールのセッティングだ。

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しかし単に撮ったのでは面白くないからモノクロ設定にして、どんな絵が表れるかを試して見た。失敗は設定でコントラストを高くしてしまってJPEGをそのまま使うことはできなかったのでRAWをモノクロ変換した。このくらいのカメラになると、へたに自分で現像するよりカメラに任せた方がよりいいJPEG画像にしてくれる場合もあるようだ。

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最初AFで撮っていたが反応が遅く(X2は改良されているらしい)、スナップショットのタイミングが遅れて何度もチャンスを逃したり、ブレたりした。結局マニュアルで距離を設定しておいて、絞りによる被写界深度の焦点内で撮ることにした。

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情景の一瞬のシャッターチャンスをとらえるスナップの醍醐味はやはり人物中心になるだろう。その点、このX1はカメラの大きさも手頃だし、性能を使いこなせればとてもいい相棒になるようなポテンシャルを感じた。そしてモノクロ写真だから生きる画像、などと大げさに意識しないで、いつも通りのテンポでシャッターを切りながら歩いた。

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モノクロ写真の神髄は銀塩写真の現像や紙焼きにあるという。昔はよく白黒フィルムで撮っていたがそういった作業をしたことがないので、自分はモノクロ写真を語るに十分な造詣もない。その独特の味を理解する知識もあまりないのだが、モノクロ写真を見るとレトロな感じが懐かしく、モノトーンが新鮮でカラー写真を見る以上に右脳が活発に働き出す実感を楽しめる。

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どういった被写体がモノクロ写真に適しているのか、それがどんな光と影の階調で画像を描き、ラインを創るのかを具体的に想定するのが難しい。先ずは被写体が醸し出す好みの雰囲気を感覚的に撮り続けていればそのうち分かってくるのだろうか。以前考えすぎて何を見ても撮る意味をなさないように思え、カメラを構えることもできなくなったことがある。

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優れたモノクロ写真を撮る人は、経験も豊かで被写体はプリントの仕上がりを頭で描いて、モノトーンで見えているのだろう。そこまでできない自分は視界がモノクロに見える眼鏡があればいいのにと思っている。

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取りあえず今の自分のモノクロ写真撮影(カラー写真もだが)のスタンスは、純粋に、自然に撮るということで、芸術的表現を目指してはいない。ただ写真家のポール・ストランドが言ったように、「その被写体を撮る理由があってこそシャッターを切る」心がけはしているつもりだ。

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モノクロ写真は明暗の階調で被写体の質感が決まるから、カラーより以上に露出の設定は大切だという。今のカメラは性能がよく、あとのレタッチで相当の修正が可能なようだが、やはり原版がしっかりしてないとそれにも限りがある。今回はできるだけ絞り優先AEは使わずにISOも状況で設定し、GOSSENの小型露出計のEV(Exposure Value)値を基本に、絞り値とシャッター速度を操作して撮るようにした。

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以前小野隆彦さんを友人に紹介されお会いしているが、先日ご一緒に食事をしながら会話を楽しむ機会があった。科学者であり、教育者であり、ビジネスマン、そして写真家の顔も持つという実に多彩なタレントをお持ちの方だが、彼の言う「モノクロ写真は俳句のようなもの」が実に深い意味合いが込められていて心に残っている。

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どんな被写体がモノクロ写真に適しているかを学びたく本を探したこともあるが、「モノクロ写真の魅力」、「モノクロ写真を楽しむ」などを手に取ると、中身はほとんどフィルム現像とかプリントをするための必要機材や作業の手順やテクニックなどの説明だった。モノクロ写真を真に理解するにはやはりその経験が必須なのかもしれない。

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記念撮影をしている横からちょいと場面を拝借してスナップすることがよくある。こうして肩を寄せ合う親子らしいこの人たちにとって、とても大切な時間なのだろう。そしてこの何秒かに感じているそれぞれの胸の思いはなんだろう。お幸せにという気持ちを贈りながらシャッターを切る。

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路地へ入ったところで突然プライベートな場面に出くわして、いいねえ、微笑ましいねえ、と暫し足を止めた。今回はモノクロでと決めていたのに、こんな春めいたシーンはやはりカラーでないとね。