2012年も幕を閉じようとしている。毎年この月になると時が過ぎるのが特に早いと感じる。年末を年の暮れとか「年の瀬」と呼ぶこともあるが、瀬は浅瀬の瀬で流れも速くなり慌ただしい感じをよく表している言葉だ。別に年内に済ませなければならないことがあるわけでもないのに忙しい気持ちになるのは、今頃になると、何かやり残したことがあるような気にさせられるからかもしれない。しかしこの年末で自分が終わってしまうことはなさそうだし、したいことや解決すべきことは常に山ほどかかえていて切れ目はないのだから、どのみち身も心もすっきりと来年はゼロから出発なんてことにはならない。しかし、たまたま正月が自分の誕生日なので、深呼吸をして新たなエネルギーで次の一年の区切りまでなんとか楽しみながら乗り切ってやろう、ぐらいは思いながら2013年を迎えたい。
このところ目的もなく郊外にでて自然に触れることが多かったが、久しぶりに街でスナップショットをしたくなった。 11月下旬からサンクスギビングやクリスマスなどの大型行事が続き、ダウンタウンも住宅街もほとんどの場所はカラフルに飾られ、こちらの気持ちも高揚するからか、相反してすこしでも憂いのある風景に出会うと余計に落ち込んだ空気を感じる。街を歩いて、その背景の人間模様を知るすべもないが、そんな様々な雰囲気に興味はある。
道路向いに目をやると、勝手に自分がそう思っているだけかも知れないが、アーティストらしき女性がバスを待っていた。この妙味のある全身の色の取り合わせや、持っている枝の束、そしてヘアスタイルにいたっては実に優雅で、身に付けている装飾品や小物も自分の手作りであろう。ここまで完璧に個性を主張する人はなかなか見ることがないので、失礼ながら少しの間、いろいろと想像を楽しまさせてもらった。車で送るオファーをして、できれば彼女の作品や工房を見せてもらえればと思ったが、バスがすぐ来てしまってそれが叶わなかったのは今も悔やまれる。彼女がどんな生活をしているのか知る由もないが、自分が描く彼女のアート人生に憧れを感じた。
このシーズンはいつもより何倍も人々が街に溢れ活気がある。品物にもよるだろうけど、この四半期だけで年間トータルの約50%を売り上げるということなので、いろいろな店も張りきってバーゲンセールをし、プレゼント交換などのシーズンで人々の購買興奮度は今や頂点に達している。
そんな嵐のようなストリートから静かそうなビルに逃れると、気持ちをほっとさせてくれるコーナーや人がいるのはありがたい。大体自分は人間生存競争には向かない性格だと常々思っているのだが、人の渦の中にいると気持ちが押しつぶされ、心臓が動悸し口が渇き、気を失いそうになることがあるので、こういう場所は自分にとってオアシスなのだ。
着る服、身に付ける小物などは豪華であってもなくても、とにかく色や形など、自分に合うものをうまく見つけるというのは女性の特質であり、男性よりも人生の意義として重要な要素だと思う。しかしそれを楽しむのは本人だけでなく、通りですれ違う我々もありがたく享受しているのだ。
スナップショットしているとよく分かるのだが、女性の本来の美しさは着飾って生まれるものでなく、日常の何気ない仕草の中にこそ現れるもので、それはその人の姿や形を超越した内面の優しさや可愛さから滲みでて、また経年により熟成されていく深く優美な響きが感じられ、はっと息をのむことがある。
ダウンタウンにあるマーケットシアターの「ガムウオール」は劇場の壁何十メートルに噛んだガムが貼り付けられていて、以前「世界3大不衛生観光スポット」のひとつとして選ばれて有名になっている。20年ほど前に誰かがいたずらでくっつけて以来らしいが、いろいろな種類のチューインガムの色や匂いが壮大な交響曲を奏でている、なんて表現したくなるような荘厳、いや壮観さがある。ここまでくれば何万人かの合作アートとしてギネスブックに載ってもいいんじゃないかな。
前述の「ガムウオール」もそうだが、裏通りを歩くと面白いことや個性的な人に出会う楽しさがある。夜は危険な場所で、明るい日中でもそんな香りが少し残っているような雰囲気が刺激センサーをくすぐってくれていいのだ。
久しぶりに数日間の街歩きはうれしいこともさびしいこともあった。街も人も栄枯盛衰で常に動いている。米タリーズ社の倒産で好きな街角のタリーズコーヒーが姿を消してしまった。