さて今回は人物スナップが主体になっているが、数点を除いて本人が知らないうちに、時にはノーファインダーで撮るキャンディッド写真だ。人々の日常の顔や仕草は本当に美しい。悪意や不埒な目的で人にカメラを向ける事はしないが、厳密に言えばプライバシー権の侵害になることもあるので、その自然な雰囲気を写したあと、できるだけ写真を当人に見てもらい承諾をとることにしている。中には不快感を示す人もいるが、そんな時は素直にあやまりデータを削除する。撮る前に許可をもらっていては自分の心に響いたその一瞬を切り取ることはできなく、全く趣旨の異なる写真になってしまうので知らせずに撮ることが多い。先ずは撮ることだ。ただ他人の領域に踏み込むことになるので、その行為に対して社会的責任を自覚できなければスナップショットはしてはならないと思っている。
スナップショットは「その場面、その瞬間」の一コマを切りとりたいので出来るだけシャッター速度を早くするが、一方、フォーカスに時間をとれないので、絞り値を大きくしピントの範囲を広くしておきたい。適切な露出に相反するこれらの操作を解決するためにISO感度を上げればいいのだが画質が悪くなるので限度がある。又、できるだけ広角のレンズを使いピントの幅を広げるという方法もあるが、撮りたい主題を画像のメインにする構図をとるには相当近づく必要がありキャンディッドが難しくなる。ここにスナップシューターを目指す我々の技術的挑戦がある。
今回は50mmと90mmのレンズを使い、背景をぼかしてメインの被写体の印象を出来るだけ強く表現するため絞りを開いた。シャッター速度はスナップに最適で手ぶれは少なかった反面、2m、3m、5mで置きピンしたフォーカスは非常にシビアだった。被写体までの目測距離の正確さが自分の今後の課題だと思った。
タイミングを逃さないよう、基本的にノーファインダーで撮るようにした。距離目測を誤り甘いフォーカスで主題がボケてしまったり、急いでカメラを向けシャッターを切る瞬間に気づかれそうになってカメラが止まらずぶれ写真になったり、構図どころか画像内に主役が入っていなかったりと散々で成功率は高くなかった。しかしキャンディッドスリルの妙味は十分すぎるほど楽しむことができたし、感じたままの絵が撮れたときは本当にうれしい。大きく残したいターゲットが5mあるいはそれ以上先の距離にあれば近づく前にカメラを向け始め、設定距離でのシャッターを切るチャンスを整えることができる。
今回掲載したすべての写真が満足と言えないまでも、最近撮った中でここに載せることができるものを選んでみたら鳥や花のスナップ写真も含め、その「顔」「姿」がテーマの集まりになった。人物スナップは特に興味があり、アドレナリンが全身の血管を駆け巡るのを感じる気持ちの高揚が楽しいし、一方、鳥や花を撮るときはトランキライザーを服用した時のような穏やかなとろっとした気分になれるのがいい。
パッシングショット(勝手につけた造語、すれ違う人物スナップ)は面白い。前方から来る人と行き交う瞬間ノーファインダーで歩きながらシャッターを切るが、ターゲットを見ずカメラだけを向ける。タイミングとカメラの方向をとるのが難しく、うまく撮れる確率は低いが、歩いている人物は実に自然体なのでスナップショットのスイートスポットなのだ。ただ撮った後すぐ折り返し、当人に写真を確認してもらうため追いかけるのが大変。
ふらふらと歩いていた彼をショットした際、それを仲間が見ていたらしく割り込んで来たところをステップバックして再度シャッターを切った。気候が暖かくなるとフリースタイルで暮らす多くの若者たちが街へ出てきて、その風俗を見せてくれる。 こうして生き物ばかり撮っていると無機物にも顔や雰囲気があるように感じ出す。そういう目で周りを見ると何でも動き出しそうに思えて、自分が物語の世界にいるような気持ちになる。その話題はまた次の機会に取り上げるとして、先ずは今回の写真を見てくださっている皆さんに、スナップ画像に流れている「その場その時」を少しでも感じていただければ幸いです。