The Wind from Seattle

Vol. 08

The Wind from Seattle Vol. 08

世界の人口は間もなく70億に達しようとしている。この国も既に3億人を超えているという。産業の勢いが盛んになり人が集まり、街が益々大きくなっていくのだろう。今や世界で10億人増えるのに10年もかからないらしいから、この世紀が終わる頃には野も山も住宅地になってしまうのではないだろうか。人間の知恵で自然を多く残しつつ生活も栄えていってほしい。日本は単一民族が主流だがアメリカは歴史上ドイツ、アイルランド、イギリス、イタリー、フランス、その他欧州系移民が多く住み、街にもその文化の香りを残している。最近は南米系、アジア系移民も多いようだ。プライベートな交流ではそれぞれの母国語を話す人が多く、街を歩いていても様々な言葉が飛び交い実に国際色豊かだ。そんな環境だから文化が混在していてどんな服装をしようが、どんな言葉で話そうが誰も気にしなく、オープンで自由な風潮がいい。

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ノートブックコンピューター、いやスマートフォン一台あれば世界の情報を誰でもどこにいても知ることができるので、近年は民族の境界線がなくなってきているように思う。知識を共有することで互いに身近な感覚を持つことができ、他人のような気がしない。目が合えば、知らない人でも軽くにこっと口元を少し上げ挨拶のサインを送ってしまうが、ほとんどの人が同じく表情を返してくれるのでほっとする。

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街は賑やかで活気があり、通りには人々のエネルギーが放射され、歩くだけで皮膚に刺激を受けているのを感じる。シアトルのダウンタウンは自分にとって人通りが丁度いい案配の街だ。人が多すぎると疲れてしまい、少なすぎると淋しくなるという難しい気質なので、頃合いに賑わうこの街は有り難い。といっても野球を見に行けば人がいっぱいいて気持ちが高揚するほうがいいし、自然の中では誰もいなくて一人のほうがいい。掴み所のないやっかいな子供だねえと親に言われたっけ。

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レンタルビデオの映画はベースが英語で、スペイン語とフランス語のサブタイトルを選べるものが多い。コンピューターゲームも、今はオンラインでゲームを自分の機器にダウンロードでき、10ヶ国語ほどから言語を選んでプレイできる世界配信が普通になりつつあるし、国の仕切りが無くなっているのを実感する。

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アメリカに代代住んでいてもそれぞれの血筋の文化が暮らしに根付いているので、生活様式などの好みが異なる。そんな人々が混じり合って同じ場所で生活しているのがとても面白い。またそれを互いに理解し尊重し合っているのがいい。要するに1+1が人によっては2でなく3であっても、まあそれもあっていいじゃんで済ましてしまう大ざっぱさも好きだ。しかし異文化間では基本的に「常識」なるものの認識が違うので、例えばビジネス上の契約書になると何十ページにも及ぶ分厚さで事細かく取り決めなければならない。事柄によるが、日本では数ページでサインを交わすことができるのは単一民族の「当たり前」の基本を共有しているからだろう。

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寒く閉ざされた冬を迎えつつある今、春を感じさせる明るく華やかなシーンを見るのはとてもうれしい。春に「春」を見るより、冬に「春」を見るのがこれほど気持ちをほっこりさせてくれるとは。あの生まれたての輝く光の中で、やさしく咲き出した花々が目に浮かび、清々しい匂いまでしてきた。そんな歓びがそのうちにやって来るのだから、これからの冷たい雨シーズンもそれなりに愉快に過ごそうなんて勇気が湧いてきちゃうんだ。

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裏通りには別の世界がある。喧騒から離れて路地で座る場所を見つけ、ふわっと深呼吸をしながら自分だけの一隅を確保し、一心に掃除をしている老人の姿をぼんやり見つめているとゆったり落ち着いた気分になり、人々の中で存在さへ不確かに思える自分でなくなっているのに気が付く。

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ディナーの営業が始まる前のひととき、裏口で一服しながら休んでいるコックさんは今夜の特別メニューのことを考えているのだろうか。見るからに、おいしいイタリアンを料理してくれそうな彼は終始ニコニコしていた。今まで数多くの職を転々と渡ってきたが、料理人の経験はなかったな。自分が作った料理をおいしいと食べてもらえたらどんなにうれしいだろう。料理するんだったらイタリアンがいいかな。日本食は料理長にこずかれながら何年も修行するという忍耐がないし、フレンチはフランス語を覚えるのが難しそうだし、チャイニーズはあのでっかい中華鍋が重そうだ。にんにくが好きだからコリアンはいいかな、いや、食べるのは何でも好きだけど、カンツォーネなんか流れている料理場で楽しげに作るイタリアンが何となく肌に合いそうだねえ。